02project story
α端子の開発秘話に迫る
- 第2技術本部
技術開発2部 川村さん、山崎さん、外池さん
α端子の開発秘話に迫る
02project story
―まず、α端子とはどのようなものなのでしょうか?
「α端子とは、アルミ電線用の端子で、当社の製品名です。ワイヤハーネスの従来品は銅電線で構成されていますが、銅は大変重いためアルミ電線への置き換えによる軽量化が模索されていました。しかしアルミ電線には大きな課題があり、水掛かり時の腐食対策が必要となります。このα端子は管構造になっていまして、その中に電線を入れ込む構造となっており、アルミが露出しないので腐食を防ぐことが可能です。」
アルミ電線の採用で大きな課題となっている防食性能の実現。いかに防食を実現するか、開発ではそれがネックになっていたと川村さんは語ります。
「銅でできている端子とアルミ電線の接続部に水などの液体が掛かった場合、アルミが腐食し不具合の原因になり、ひどい場合は断線してしまうという問題がありました。従来品では接続部を樹脂でコーティングすることで防食を実現していましたが、その分サイズが大きくなってしまい、また製造コストも高く、アルミの採用拡大の大きな足かせとなっていました。」
そこで開発されたのが『α端子』です。
―製品開発、開発のきっかけなどについてお話いただけますか?
「端子を管構造にすることでアルミの露出をなくすという
そのコンセプト自体は斬新なものではないのです。」
しかしそれを実現させることは、当時の技術では難しかったといいます。
「端子は通常板材をプレス成形して作りますので、管構造とすると合わせ目ができてしまいます。水が浸入しない管構造を実現するには、製造方法やコストにおいて大きな課題がありました。」
そうした折、別の開発で鍵となる新技術『ファイバーレーザ溶接』の存在を知ったことで、状況が変わりました。
「古河電工にてファイバーレーザ溶接という新しい技術を用いた溶接機を開発しており、別の製品開発プロジェクトでファイバーレーザ溶接を使った製造方法が検討されていました。」
ファイバーレーザ溶接とは、高速で微細加工が可能な特徴的な溶接技術です。
「この溶接技術なら小さな端子の合わせ目を高速・精密に溶接できるかも知れない、と考えたのが開発のきっかけです。」
―新しい溶接技術の登場がきっかけだったのですね。
製品化するまでには色々なことがあったかと思うのですが、
その道のりについてもお伺いできますか。
「実際に開発を進めていくとたくさんの課題が出てきました。」
当初は管形状の端子さえ製造できればうまくいくのでは、と考えていたそう。
「端子の形が大きく変わっても、電線と端子をきちんと接続することが大前提です。水からアルミを守らなければならないので、密閉性がなければいけませんし、止水のメカニズムについての理論構築をしっかり行う必要がありました。また、端子の製造工程の中に溶接工程を追加するのは初めてのことだった為、設備開発や検査方法なども具体的な課題として挙がってきました。」
従来とは大きく違う技術だったため、課題は多岐に渡り、端子の設計者や製造担当者だけでは解決し難いものでした。
そこで活躍したのが、古河電工グループの各専門家たち。
「金属の専門家や高分子の専門家、分析やシミュレーションをしてくれる専門家など、古河電工の研究所を中心に10人ほどのメンバーが集結し、力を合わせて開発を進めました。」
そして開発にあたること約3年。メンバーと共に課題をクリアし、量産にたどり着きました。
―仕組み自体はシンプルなものだと思うのですが、ファイバーレーザ溶接を用いても他のメーカーが真似できないところなどお聞かせいただけますでしょうか?
この質問には、技術面と人財面からお答えいただきました。
「溶接端子の実現には、溶接技術だけではなく、ベースとなる端子製造技術が必要です。従来は許容されていた僅かな隙間も、溶接したら大きな欠陥になってしまいます。そのためα端子を製造するには高度なプレス成形の技術も要求されます。溶接は条件や材料によって大きく状態が変化するため金属の知見が必要ですし、接続や止水のメカニズム検証にはシミュレーションの専門家が必要です。そういったことができるだけの技術力と人財がグループ内に揃っているというのが非常に重要です。」
α端子製造は新しい技術の採用のみならず、それをベースにさらなる工夫ができる社内のプロフェッショナルの活躍があってこそのものでした。
―苦労したことなどを伺ってもよろしいでしょうか?
「各部門のスペシャリストにチームに加わっていただき、協力して課題を解決していくことができました。しかし最適な人財を集めた結果、ロケーション(勤務場所)が離れているという問題がありました。」
設計や設備も滋賀ですが、端子製造は三重で行ない、溶接の人は千葉、研究所は日光、平塚、横浜という具合に津々浦々だったといいます。
「それをひとつのチームとして一体感を持って開発を進めていけるように、ミーティングや情報共有の方法、タイミングを工夫しました。例えば、端子の製造と設計がこれまでと大きく変わるということがわかっていましたので、『こんな設計になったので、後はうまいこと製造してください』ではなく、最初から『こういうことをやりたいのだけど、実際に製造する人としてどうだろう』と仲間に入れて情報交換することで、トラブルになることもなく進められたと思います。」
早い段階からの情報共有が、安定した体制づくりの基盤となり、後々スムーズに進むポイントになったようです。
それは、他のところにも現れていました。
―クライアントの反応などをお話いただけますか?
「樹脂でのコーティング以外の防食対応は、技術やコスト上難しいと思われていたところに、『こういう製造技術と、こういった設計で実現できます』と紹介しました。クライアントから興味と期待を持っていただくことができ、様々な面でご協力が得られました。また、工場にはたくさんのお客様に工程をご見学に来ていただきましたが、これまでの溶接のスピード・精度の概念を覆すような製造工程に皆様驚かれます。」
社内のみならず、クライアントの協力も得ながら開発されたα端子。多くの人が待ちわび、センセーショナルな登場を果たしたのは2015年8月のことです。アルミ電線の採用を加速させる存在となりました。
―現在α端子を取り巻く状況、そして今後の戦略についてご説明いただきたいと思います。
「ワイヤハーネスに使用される端子の種類は膨大であり、現状では全ての端子がα端子となっている訳ではありません。今後はラインナップを増やし、アルミ電線を採用できる範囲を広げ、さらなる軽量化を目指します。いずれは世界中でα端子が使われるようにしていきたいですね。」
一滴の水がやがて大海になるように、古河ASのプロフェッショナルの現場では、日々こつこつと製品開発が進められていました。